再び演劇について

一口に演ずるといっても、自分のつたない経験から、テレビと舞台では大きく違うように感じます。

自分が舞台演劇をかじり始めたとき、演ずるとは現実になるべく近づけることだと思っていました。でも、演出から何度も何度もNGを出されてしまう。まだ不自然かと思ってどんどん写実をしても駄目。途方に暮れましたね。
で、最後に、思いっきりゆっくりと、大げさにしゃべってみると、何とOKになりました。

当たり前ですが、舞台演劇はお客さんとの距離があります。その中で、基本的に地声で伝えなければならない。せりふもしぐさも大げさで丁度いいんですね。極端な例は歌舞伎でしょうが、通常の演劇もいわば大げさ、あるいはある種のくさみが約束ごとになっており、その中で表現をするわけです。

面白いのは、タミヤのプラモデルについても、細部(例えば戦車に付いているシャベルなど)については実際の寸法よりも大きめにしないと臨場感が出ないとか。どうやら、人間の感覚には、ある程度以上の解像度が必要のようです。

くささではないですが、プレゼンテーションなんかも非常に演劇的な要素が必要ですね。要するに、自分では少しくさいな、と思うくらいの大げささで丁度相手に伝わると言うことです。というか、自分が思っているほど、相手は自分のメリハリを感じてくれないので、メリハリ度は少し、相手によっては相当上げておく必要があります。コミュニケーションの難しさというのはこんなところにもありそうです。

しかし、テレビの場合、相当解像度が高いようですね。昔から、テレビは予想以上にそれぞれの人の人格を映し出すと言われますが、多分、機能として「拡大」があるのでしょう。
ですから、テレビドラマに舞台中心の俳優が出てくると不自然極まりないですね。何もかも大仰で。むしろ、素人のタレントなんかが割と簡単に演ずることができてしまうのは、彼らの勘の良さもさることながら、この拡大機能が下支えとなっているんでしょう。

それにしても、名優はいろいろなメディア(歌舞伎から商業演劇、新劇、映画、テレビなど)を実にひょいひょいと移動していますね。プロと言えばそれまでなんでしょうが、それぞれの本質をつかむ力のなせる業ですね。