複雑系についていくつか

生兵法は怪我のもととは分かっていながら以下いくつか。

最近はマスコミ的には下火になっていますが、一時、「複雑系」は一種のマジックワードでしたね。しかし、その実、「何となく難しいことをやっている」というイメージ以上のものはあまりなかったように思います。

筆者の理解では、複雑系と呼ばれる分野は大きく二つに分かれると思っています。
一つは、非線形的なモデルの研究です。非線形ですと、基本的に「解く」ことが難しい、あるいはできないことが多いわけですが、これを近似的に接近していくものです。一種の工学的な解決といってもいいかも知れません。これなんか、旧来の科学の延長と思われます。
もう一つは、モデルをコンピュータの中で走らせてその軌跡と言うか振る舞いを研究するものです。いわゆる「人工生命」なんかが典型ですね。これは、個体に一定のルールを与えて時間を経過させると生成・死滅・繁殖のような振る舞いをするので、これを生命体のアナロジーとして研究するわけです。実際の生命体の研究のための仮説の構築、あるいは仮説の検証を目的としていると思われます。
ポイントは、これらはいずれも最近のコンピュータの発達を背景としたシミュレーションに依っていることです。膨大なデータ処理が簡単にできる現代の状況を抜きにしては、複雑系の発達はあり得ません。

ところで、シミュレーションと言えば、昔読んだ杉本大一郎氏の「宇宙の終焉」という本で、氏が渦巻き銀河のモデルをコンピュータ内で冷やすシミュレーションをすると銀河の腕が巻き込むように縮むということがあり、それがなぜかということを調べているというくだりがありました。一種の複雑系のはしりなんでしょうが、同時に究極の世間離れとも思いましたね(別にくさしているわけではなく、天文学と言うものの一つの本質ではないかと思います)。

複雑系と言えば、サンタフェ研究所が有名ですが、筆者、アメリカ駐在中にこの研究所にひかれてサンタフェに行ってみたことがあります。一緒に連れて行かれた家族には何のこっちゃだったでしょう。もっとも、研究所自体は荒涼とした山の中腹にぽつぽつと建物が点在しているだけでした。まあ、この研究、基本的にPCさえあればいいわけで、こんな梁山泊的なたたずまいになるんでしょう。こういう環境でスチュアート・カウフマンとかクリストファー・ラングトンなどといった面々が日々PCの画面とにらめっこしているかと思うと何ともいえない気分でしたね。

サンタフェはそれだけではなく、プエブロ様式と言う、屋根がなく外部が褐色の漆喰の壁に囲まれた独特の住宅に満ち満ちている不思議な町です。特に驚いたのは、サンタフェ研究所のすぐ近くに日本の温泉宿のようなところがあり(「美波」という名前でした)、家族で露天風呂を楽しみました。

サンタフェのあるニューメキシコといい、アリゾナ(砂漠の中にあるアーコ・サンティという実験都市を訪ねたことがあります)といい、アメリカ南西部の諸州はまた特別な雰囲気があります。いやー、アメリカもなかなか奥が深いですよ。