Fさんのこと

筆者もそれなりの年を生きているので、いろいろな方にお世話になってきていますし、師と呼べる方も多数おられます。

筆者いきつけのカクテルバーのマスターであるF氏も、筆者の師のお一人です。知り合ってから、もう30年以上になりますか(筆者の年がばれますな)。
大学入学後、畏友W君の紹介で、当時雇われだったFさんに出会いました。普段は寡黙な方で、カクテルの腕は超一流。また、バーテンダーのたしなみとして、つまみの工夫も毎度うならされてきました。

筆者、Fさんの店で「大人の酒の飲み方」を習いました。まあ、マナーと言うよりもスキルですかね。実は、Fさんの店に通うようになってから、酒の世界に目覚めまして、俄然勉強し始めたんです。今ではロングセラーになった「世界の名酒辞典」の初版をはじめ、カクテルブックなんかも買い込み、知識を詰め込んではFさんの店で試してみたわけです。もちろんどんなカクテルを頼んでもたちどころに作ってくれましたが、そのうちにやはりスタンダードカクテルが一番おいしいことに気がついたんですね。さすが、長い間揉まれてきただけのことはあります。
また、寡黙ながらFさんとの酒談義は実に楽しいものでしたし、マナー違反はそれとなく注意されました。

そのような薫陶のおかげで、今ではどんなバーに行っても気後れしないであろうと感じています。これは実に大きな財産ですね。

Fさん、同じオーナーの店に変わってから、自分の店を持ち、さらに場所が変わって現在の店に落ち着かれています。その間、いろいろと苦労をされてこられ、時には愚痴を聞くこともありましたが、今は仕事を楽しんでおられるようにお見受けしています。
不思議なことに、Fさんは30年前に会ったときから風貌が全く変わっていません。その意味での怪人なんですが、おそらく陰では非常な節制をされているものと想像しています。この年末、日本に帰ってFさんのお店に伺うことがいまの楽しみの一つです。