料理人さん

筆者のいるところには、幸いなことに日本料理店があるのですが、ヨーロッパの、特に内陸部で日本料理を提供するのは本当に大変だと思います。
日本料理の場合、丼ものは別とすると、必要な素材が実に多いですね、例えば、わさびなんかその典型ですし、味噌とか昆布とか鰹節とか。醤油でも中華風のはちょっと使えないでしょう。海外での日本料理の典型である寿司なんか、地元の魚介類もなかなか使えないので、結構日本からの冷凍ものに頼ることになりますね。
ところが、ヨーロッパでもアメリカでも、中国料理店は本当にどこでもありますね。もちろん、中国人移民の絶対数の多さはあるんでしょうが、ある人の説では、中国料理は料理としての抽象度が高いからというものがあります。確かに、中国料理は素材をあんまり選びません。火力と醤油さえあればあとは地元の素材で相当なものができるということですね。
そういえば、近代フランス料理のルーツは、フランス王家に嫁入りしたメディチ家のお姫様についてきたイタリア人料理人が、素材のひどさに対応するためソースを工夫することから始まったとか。そういう意味からすると、現代のヌーベルキュイジーヌなんか、やっと素材に恵まれたゆえの先祖がえりなのかも知れません。
しかし、日本食の定義ってなんでしょうかね。アメリカで出会った料理人に言わせると、日本人は醤油中毒なんだそうな。確かに、醤油味無しでは、一日も過ごせない部分はありますね。もしも、日本食の精髄が醤油味にあるとすると、まだまだ各地に対応した新日本食の可能性は広いんでしょう。やや旧聞ですが、カリフォルニアロールなんか大した発明ですよ。

最後に蛇足を。一昨日、その近くの日本料理店のシェフと話をしていたら、料理人って味見をするときにおなかをある程度一杯にしておくんだとか。そうでないと、何を味わってもおいしく感じてしまうため、空腹を避けるそうです。昔から、料理人は寿命が短い職業の一つとされていますが、なかなか大変なものです。もっとも、昔の帝国ホテルの総料理長だった村上信夫氏は柔道で鍛えていたそうで、一流の人にはやはり健康管理は不可欠ですね。