戦車(その1)

この夏休みにドイツを回った際に、「ムンスター戦車博物館」に行ってきました。ここは、イギリスのボービントンやアメリカのアバディーン、フォートノックスなどと並び、戦車ファンの聖地ともいえる場所です。ドイツ戦車だけでなく、各国の戦車を一通り網羅していますが、面白いのは旧東ドイツの崩壊とともに、東独軍保有していた旧ソ連製戦車が大量にコレクションされていたことです。

その際、改めて感じたのは、ソ連戦車の車高の低さです。というか、ボディが本当に縦方向に薄いんですよ。実はこれ、第二次大戦初期からの伝統なんです。
当時の各国の戦車はエンジン後ろ置き・前輪駆動(RF)でした。というのは、変速機が大きく、エンジンと変速機を両方とも後部に置くと車体のバランスが崩れる。そのため、変速機を前に置いてエンジンとはプロペラシャフトで連結するんですが、そうするとどうしても車高が高くなってしまうんです。ところが、ソ連のT34戦車はコンパクトな変速機が開発されていて、エンジン後ろ置き・後輪駆動になっているんですね。プロペラシャフトが無い分、ボディが薄くなる。戦車にとって車高が低いということは、シルエットが小さくなるので対戦車戦闘で非常に有利に働くんです。
実際、ソ連に侵攻したドイツ軍はT34の優秀さに度肝を抜かれ、あわててパンテルを開発したんですが、実物でパンテルとT34を比べると、なおT34の方が相当コンパクトでした。
日本ではタイガー戦車などドイツ戦車の人気が高いんですが、総合的に見て戦車王国はソ連だったといえるでしょう。何しろ、前期型のT34を2万輌、後期型のT34/85も2万輌生産しているのに対し、ドイツのパンテルは8千輌、タイガー1型で1500輌弱、キングタイガーなんか800輌程度ですから、話になりません。もちろん、ドイツ軍は他の型の戦車や突撃砲なんかも生産しているわけですが、とにかく一部のヒーローストーリーに目を奪われること無く、冷静に状況を見る必要がありますね。

さて、ソ連戦車、コンパクトになったのはいいんですが、その分居住性は犠牲にされているわけで、ソ連では戦車兵は小男と相場が決まっていたそうです。そこから、旧ソ連では戦車兵が中央アジア人に限られ、軍の基礎が揺らぐという論もありましたっけ。

それに対し、アメリカ軍の戦車は豪快ですね。車高を下げるなんてこれっぽっちも思っていないと言わんばかりのラインナップです。三階建て戦車のリーは別格にしても、シャーマンなんかも相当なものです。これはエンジンを他から流用し、それにボディを合わせたという面もあったようですが、少なくとも小柄な戦車兵を前提とはしていませんね。ですから、第二次大戦後、警察予備隊に米軍からシャーマンが供与された際に、日本人には操縦席のペダルに足が届かずに困ったそうな。