ヨーロッパ人は狩猟民族??

筆者の嫌いな言い方に「西洋人は狩猟民族で、日本人は農耕民族」というのがあります。よく、結構えらいおじさんが、「ほら、彼らは狩猟民族だから金融なんかでも抜け目がないんだよね。そこへいくと、日本人は農耕民族だから・・・」なんていっていますよね。

でも、狩猟民族って??アフリカのマサイのような少数民族ならいざ知らず、歴史的にも大人数の西洋人が狩猟だけで、あるいは狩猟に依存して暮らしてきたはずありません。何でこうなったんでしょうか?

確かに、ヨーロッパ貴族に狩りの伝統があるのは事実です。イギリス貴族は、子供の最初のキツネ狩りの際に、捕ったキツネの尾を切って血を子供の顔に塗るとのことですし、暗殺されたオーストリア・ハンガリー帝国の皇太子フランツ・フェルディナントは生涯に30万頭(30万頭ですよ!)の動物を仕留めたとか。でも、日本の武士にも当然狩りはアクティビティの一つでした。それに、漁撈なんかも十分に狩猟的ですよね。逆に、ヨーロッパの農民は、領主の狩りの対象と言うことで害獣の駆除もできなかったこともあります。ですから、必ずしも狩猟がヨーロッパ人の専売特許とは言えないですね。

一つ考えられるのは、肉食度の違いでしょうか。日本の場合、仏教の影響で肉食をしなかったと言われていますが、なーに庶民はそれなりに食べていたはずです。でも、日本の場合、鶏肉や獣肉はあくまでもご馳走の一つでしかなかった。何しろ、米などの穀物で大きな人口を養っていけたからです。しかし、ヨーロッパはそうではなかったんですね。11世紀の農業革命の前など、小麦1粒が3粒の収穫にしかならなかったんですから。農業革命の後でもせいぜい7粒くらい。だから、昔は豚を飼って森のドングリを食わせ、冬の前には大半を殺してベーコンやソーセージなんかにしていた。豚なくしては冬は飢える他ないわけですね。ですから、肉食が生存のためにビルトインされていたわけです。それに、屠殺が生活の一部なので、逆上なんかしないですね。

もう一つあるのは、ヨーロッパの農業の粗放性です。こちらに住んで思うのは、ほんとに畑で人を見ないんですよね。基本的に耕して播種し、刈り取る。それだけのような気がします。それに対し、日本の水田農業なんか、種まき、代掻き、田植え、草取り、水抜き、稲刈りととことん人手をかけます。いつか、木村尚三郎さんが「西洋人が見ると日本の農業は農業ではなく園芸だ」と言うくだりがありましたが、まさにそうですね。海外から日本に帰ると、田んぼがまるでじゅうたんのようで、涙が出ます。

というわけで、以上のような感じをもって、西洋人を「狩猟民族」と何となく言っているんだと思いますが、それってねえ。さらに、これを真に受けて、何もかも狩猟的な行動様式で説明しようと言うのは笑止千万です。

でも、この類の思い込みってまだまだありそうな。