人の発するにおいについて

ヨーロッパやアメリカに住んでいると、しばしば人の体臭を感じます。また、一方、香水の香りもありふれていますね。

一体、肉食を主とするせいでしょう、白人は体臭が強い人が多いように思います。彼らも気にしているようで、香水の発達はその防衛なんでしょうし、また、昔のマナーブックに白人にギフトとして石鹸を贈るのはタブーであるとありました。「お前は臭い」というメッセージなんだそうな。また、この間、オフィスのレイアウトを議論していたら、ロッカールームの位置をしきりに遠ざけようとするんですね。これも、においが気になるんだとか。
逆に、香水文化は本当に独特な発展を見せています。変な例ですが、ゴルゴ13に、近づいてきた女に対し、ゲランの「夜間飛行」を初めてつけたと指摘する場面がありますが、要するに、毎日つけていると自分の体臭と混ざって独特の香りになるのに、この女の場合は生のままの香水であると見破る(きき破る?)んですね。それだけ、香水を自分のレパートリーというか自分の一部としているというわけです。

まあ、そうはいっても現代人は入浴やシャワーの頻度が高いとは思いますが、昔のヨーロッパ人なんかは本当に臭かったでしょうね。17世紀フランスだったと思いますが、当時の王様が生まれて数年たって初めて顔を洗ったとか、下着を月一回取り替える人はきれい好きだったとかいう記録があります。また、セピア色は、セピアと言うお姫様の肌着の色が黒ずんでいたところから来たとか。また、有名なアンリ4世は、寵姫からも臭くて敬遠されたとか。ですから、香水は本当に効果があったでしょうね。もっとも、中世史の木村尚三郎先生によると、中世のパリに30軒ほどあった公衆浴場が、新大陸から梅毒が入ってきてから2軒になったそうですから、大昔から不潔だったのかは分かりませんが。しかし、「公衆浴場」の実態がしのばれますね。

日本でも、平安貴族なんかはやはり臭かったようですね。何しろ、入浴の習慣がなく、時々体を拭く程度だったようですので、ヨーロッパ貴族を笑えません。面白いのは、日本の場合は、体ににおいをつけるのではなく、衣服に焚き染めることを選択している点ですね。やはり、体自体のにおいは白人ほどじゃないんでしょうか。まあ、源氏物語の匂宮は自身からの香りだったようですが。

中国になると、もっと凄くて、娘に香料を食べさせ続けて、体からいい匂いを発するようにしたとか。こういう娘たちが皇帝の後宮に入っていくわけですね。楊貴妃なんかもその一人だったようですが、それだけに娘たちは寿命を縮めたとの話もあります。

ちなみに、「ゆかいな理科年表」によると、口臭を気にし始めたのは非常に最近のことで、20世紀初めにランバート製薬がリステリンで大当たりをとってからのようです。リステリン自体は1879年に、創業者のランバートによって発明されたんですが、息子が大々的に売り出し、それ以来、皆が口臭に関心を向けるようになったとか。紀元前1550年にすでにマウスウォッシュの処方の記録があるそうですが、大衆的な関心事になったのはこのブームからということです。もっとも、そのためにランバート二世は、墓碑銘に「口臭の父ここに眠る」と書かれるんじゃないかと気にしていたとも言われますが、まあ、冗談でしょうね。